ミッション
なぜ家具屋を始めたのか
佐藤裕介と田中大輔はそれぞれ勤めていたIT企業を辞めた。二人に共通していたのは「毎日8時間以上オフィスの椅子に座っているくせに、その椅子が自分の体に何をしているのか考えたことがない」という事実だった。佐藤は入社3年目あたりから腰痛がひどくなって整形外科に通い始めた。椎間板が圧迫されている、と医者に言われた。田中は肩こりと頭痛が慢性化して整骨院に週1回通っていた。二人とも原因の一つがオフィスの椅子だと気づいたのは辞めてからだった。
独立を選んだのは別にかっこいい理由があったわけじゃない。二人ともオフィスの家具を真面目に探してみたら「ちょうどいいもの」がどこにも見つからなかったからだ。高級ブランドの椅子は1脚20万円を超える。ハーマンミラーやスチールケースは確かにいいけど、スタートアップの予算では手が出ない。一方で量販店に行くと1万円台の椅子がずらりと並んでいる。見た目はそこそこだが、半年使うとガスシリンダーが抜けて座面がじわじわ下がるようになる。ウレタンのクッション材は3ヶ月でへたる。その中間、5万円から10万円の価格帯で、品質がしっかりしたオフィスチェアがほとんど存在していなかった。
だったら自分たちで海外メーカーと国内メーカーを回って、品質と価格のバランスが取れている製品を見つけて仕入れればいい。最初は佐藤の千葉の実家のガレージにサンプルの椅子を5脚並べたところから始まった。知り合いのスタートアップに電話して「とにかく座ってみてくれ」と頼んで回った。5脚のうち3脚が売れた。手応えがあったので次は10脚を仕入れた。気づいたらガレージに入りきらなくなって、いすみ市に小さな倉庫を借りた。二人分の生活費を払ったらほとんど残らなかったが、買ってくれた人たちが「これいいね」と笑顔で言ってくれた。その反応を見て、続ける価値があると確信した。翌年には取引先を30社に増やした。法人の総務担当者に向けて手書きの手紙を送り続けた。メールではなく手紙にしたのは、手紙のほうが読んでもらえるからだ。地道な営業だったが、そのおかげで徐々に口コミが広がった。「CoreWorkspaceの椅子、いいですよ」と知人に勧めてくれるお客様が出てきたのが3年目のことだ。
私たちが考える「いいオフィス家具」の条件
高ければいいわけじゃないし、安いから悪いとも限らない。当社が仕入れの際に見ている基準は3つだけだ。1つめは「5年使えるか」。オフィスの椅子は毎日8時間以上、週5日使われる。年間で約2000時間。家庭用の椅子とは使用頻度がまったく違う。だからガスシリンダーの耐久試験の回数、キャスターの素材と車輪径、座面ウレタンの密度と反発係数を確認する。カタログに書いてあるスペックだけでは判断できないから、メーカーからサンプルを借りて1週間自分たちで使ったうえで初めて仕入れるかどうかを判断している。
2つめは「調整できるか」。座面の高さ調整は当然として、背もたれのリクライニング角度、ランバーサポートの位置、アームレストの高さと幅と前後位置。体格は人によって違うし、好みの座り方も違う。調整できるポイントが多い椅子は、それだけ多くの人の体にフィットする。逆に言うと、調整機能が限られた椅子はどれだけデザインが良くても仕入れない方針にしている。オフィスに10人いたら10通りの体がある。椅子が人に合わせるべきで、人が椅子に合わせるのは本末転倒だ。3つめは「見た目が邪魔にならないか」。オフィスに置くものだから、ゲーミングチェアみたいに主張の強いデザインは困る。かといって事務椅子然としたものも味気ない。空間に溶け込んで、でも安っぽくは見えない。そういうバランスの製品だけを選んでいる。仕入れ先はドイツ、イタリア、スウェーデンのメーカーと国内メーカーが中心で、展示会には年に4回から5回足を運ぶ。現物を見ないで仕入れたことは一度もない。仕入れを断った製品の数は、採用した製品の3倍以上になる。メーカーには申し訳ないが、お客様に自信を持って勧められないものは絶対に扱わない。当社の棚に並ぶすべての製品は、佐藤か田中のどちらか、あるいは両方が実際に1週間以上使って「これは5年使える」と判断したものだけだ。その選別の厳しさが当社の価値だと思っている。
これからやりたいこと
正直なところ、向こう5年の事業計画がきっちり固まっているわけではない。今は千葉県いすみ市に倉庫兼ショールームがあって、関東圏を中心にお客様に家具を届けている。会社としてはまだ小さい。ただ、近いうちに形にしたいことが2つある。
ひとつは法人向けのレンタルサービスだ。スタートアップや短期プロジェクトのチームにとって、オフィス家具を購入するのは資金的にも管理的にも負担が大きい。6ヶ月間だけ使いたいのに何十万円も出して購入するのは合理的ではない。だから月額制で必要な台数を必要な期間だけ使ってもらい、不要になった時点で当社が回収する仕組みを作りたい。椅子なら1脚あたり月額3000円前後、デスクなら月額2000円前後を想定している。法人向けなので最低利用期間は3ヶ月から設定するつもりだ。
もうひとつは中古家具の買取と再販。当社で販売した製品を3年後、5年後に引き取って、座面の張り替え、ガスシリンダーの交換、フレームのクリーニングなどのメンテナンスを行い、中古品として適正な価格で再販する。いい家具を長く使って、自分に不要になったら次の人に渡す。家具は本来使い捨てるものじゃない。そういう循環を自社の中で完結させるのが今の最大の目標だ。2年後、3年後に会社がどうなっているかは正直わからないが、「CoreWorkspaceで買ってよかった」とお客様に思ってもらえる存在であり続ける。それだけは変わらない。売上を追いかけるために品質を犠牲にすることは絶対にしない。大きくなることが目的ではなくて、お客様が毎日座る椅子、毎日使うデスクを通じて「働くことが少し楽になった」と感じてもらうこと。規模は小さくても、その実感を届けられる会社でいたい。年商が10億になっても100億になっても、ガレージに椅子を並べた時の気持ちは忘れないようにする。結局のところ、いい家具をまっとうな価格で届ける。やることはシンプルだ。そのシンプルなことを、手を抜かずに続けていく。
